濃茶(こいちゃ)と薄茶(うすちゃ)。名前のとおり濃さが違うのですが、違うのは濃さだけではありません。別の場面だと思ったほうが、実際に近いです。
点てるか、練るか
まず手つきが違います。
薄茶は「点てる」。茶碗に湯を注ぎ、茶筅を素早く振って泡を立てます。さらりとして、口当たりのやわらかい一服になります。
濃茶は「練る」。湯を少なめに入れ、茶筅をゆっくり動かして、とろりとするまで練ります。泡は立てません。表面はつやのある濃緑で、ひと口で流し込むというより、口に含んで味わうものです。
抹茶の量も違います。おおむね濃茶は薄茶の倍ほどを、少ない湯で練ります。
そもそも、茶が違う
同じ抹茶を濃く練るか薄く点てるか、という話ではありません。使う茶そのものが違います。
濃茶に使う茶は、品種から違います。育て方も違う。覆いをかける期間も、そこに注ぐ手間も、薄茶用とは別のものです。茶園がどれだけの熱量をかけたか——それがそのまま、濃茶に使える茶になるかどうかを分けます。
茶園の価値は、この濃茶用の茶で決まると言ってよいほどです。名の通った茶園の名は、たいてい濃茶の茶で知られています。
一碗を回すか、一人ずつか
ここがいちばん大きな違いです。
濃茶は、一碗を客が回して頂きます。亭主が練った一碗を、正客が頂き、次の客へ回す。全員が同じ碗から飲みます。
薄茶は、客一人ずつに点てます。一人に一碗です。
回して頂く形は、はじめての方が最も驚くところだと思います。ただ、これは効率の問題ではありません。同じ一碗を分かち合うこと自体に意味があるという考え方です。亭主が心を込めて練った一碗を、その場の全員で共にする。茶の湯の核心と言われるのは、この場面です。
菓子も、席の空気も違う
濃茶には主菓子——練り切りなどの生菓子が出ます。薄茶には干菓子——落雁や有平糖のような、乾いた小さな菓子です。
席の空気も変わります。濃茶の席は静かです。言葉数が少なく、張りつめています。最上の道具と最良の茶が使われるのも濃茶のほうです。
薄茶になると、場がやわらぎます。主客の会話が生まれ、道具の話や季節の話が交わされる。濃茶の緊張を解いて、一座を結ぶのが薄茶の役目です。
順番は、濃茶が先
「どちらが先か」もよく聞かれます。茶事では濃茶が先、薄茶が後です。
正式な茶事は、寄付に集まり、初炭を見て、懐石をいただき、主菓子が出て、いったん席を出る(中立)。そのあと席入りし直して、濃茶。続いて後炭、そして薄茶で終わります。全体でおよそ四時間。
濃茶がその頂点に置かれていて、薄茶は締めくくりです。緊張してから、ほどける。この順番に、茶事の設計が表れています。
気軽に頂けるのは薄茶
いっぽう、茶会——大寄せの会や、お寺・美術館の呈茶——で出されるのは、たいてい薄茶一服です。
懐石もなく、濃茶もなく、薄茶だけを気軽にいただく。これも立派に茶の湯です。「濃茶を頂いたことがないと茶の湯ではない」ということは、まったくありません。
はじめての方は、まず薄茶からで十分だと思います。
ただ、濃茶がとっつきにくい飲みものだという話ではありません。むしろ逆で、濃茶はそれだけを頂いてもおいしいものです。
そのうえで、茶事にはもう一段の支度があります。懐石の終わりに、菓子と口取——煮しめた干瓢のような、しょっぱいもの——を頂きます。甘いものと塩気のものを重ねて、口の中をいったんゼロに戻す。何の味も残っていないところへ、濃茶が入ります。
あの一碗が深く感じられるのは、茶がよいからだけではなく、そこまでの段取りが、舌を白紙にしてあるからでもあります。
濃茶の席で、はじめての人が困ること
回して頂くとき、何をすればよいか。順番だけ書いておきます。
正客は茶碗を受け、次客に「お先に」と挨拶してから頂きます。頂いたあと、口をつけた縁を懐紙で拭き、正面を戻して次の客へ回す。最後の客が頂き終えたら、亭主に返します。
頂く量は、人数で割ったぶん。三口半で、というような言い方もありますが、厳密でなくて構いません。全員に行き渡ることのほうが大事です。
衛生を気にされる方もいます。近年は各服点て——一人ずつ点てる形——を選ぶ会も増えました。作法は時代に応じて動きます。回して頂く形でなければ濃茶でない、ということはありません。