はじまりの茶の湯学茶の湯のはなし

抹茶・玉露・煎茶のちがい ── 同じ木から、なぜ別の茶になるのか

2026-08-07 文・武井宗道
抹茶も玉露も煎茶も、同じ茶の木から採れます。分かれ道は「覆うか」「揉むか」「挽くか」の三つだけ。この三つを押さえると、世界で売られている「マッチャ」との違いもはっきりします。

抹茶、玉露、煎茶、番茶、ほうじ茶。売り場にはいくつも並んでいますが、もとは全部、同じ木です。日本で飲まれる緑茶は、ほぼすべてチャノキという一種類の木から採れます。

では何が違うのか。分かれ道は三つだけです。

三つの分かれ道

1. 覆うか、覆わないか(育て方)
2. 揉むか、揉まないか(仕上げ方)
3. 挽くか、挽かないか(飲む形)

この三つの組み合わせで、名前が決まります。

厳密には、その手前にもう一つ、品種という分かれ道があります。同じチャノキでも、抹茶に向く木と煎茶に向く木があり、とくに濃茶に使う茶は品種から選ばれます。茶園の価値は、そこで決まると言ってよいほどです。ただ、売り場に並ぶ名前の違いは、ほぼ上の三つで説明がつきます。

覆うと、何が変わるか

摘む前の三週間ほど、茶畑に覆いをかけて日光を遮る。これを覆下栽培(おおいしたさいばい)といいます。

日が当たらないと、葉は身を守るための苦渋み成分(カテキン)をあまり作らず、代わりに旨味成分(アミノ酸・テアニン)を蓄えます。葉緑素が増えるので、色も濃い緑になります。

覆った茶は、旨味が強く、苦渋みが少なく、緑が濃い。この一手間が、高級茶と普段の茶を分ける最初の分岐です。

覆下栽培は、日本で生まれた工夫です。ただし「日本にしかない」わけではありません。いまは中国でも大規模に行われていて、山ひとつがまるごと覆いに包まれているような畑もあります。工夫が生まれた場所と、いま量を作っている場所は、別だということです。

栄西が茶を伝えた当初は、覆いをかけない露地栽培でした。その頃の抹茶は、いまのような濃い緑ではありません。酸化が進んで葉緑素が抜け、白というより灰色に近い色をしていた。味も、苦く渋いものでした。

三つの茶が、どこで分かれるか

抹茶——覆う。揉まない。乾かして碾茶(てんちゃ)にし、石臼で挽いて粉にする。

玉露——覆う。揉む。葉のまま湯で淹れる。

煎茶——覆わない。揉む。葉のまま淹れる。

つまり、玉露と抹茶は「覆う」まで同じ道を来て、揉むかどうかで分かれます。玉露と煎茶は「揉んで葉のまま淹れる」点が同じで、覆うかどうかで分かれます。

かぶせ茶は、覆う期間が一週間ほどと短いもので、煎茶と玉露の中間にあたります。

なぜ抹茶だけ揉まないのか。揉むと葉の繊維が壊れます。挽いて粉にするには、繊維が壊れていないほうがよい。飲む形が先に決まっていて、そこから逆算して作り方が決まっているわけです。

「マッチャ」と抹茶

世界中で緑の粉が「MATCHA」の名で売られるようになりました。ただ、そのすべてが抹茶かというと、そうではありません。

本来の抹茶は、次の三つを満たすものを指します。

1. 覆下で育てた葉
2. 揉まずに乾かした碾茶
3. 石臼(またはそれに相当する微粉)で挽いたもの

覆わずに育てた葉や、粉砕機で砕いただけの粉末茶が「マッチャ」として流通することがあります。

茶の側には、こうしたものを呼び分ける言葉があります。

たとえば「モガ」。高価な碾茶炉を使わず、煎茶の機械から揉む工程を省いて作る、碾茶に似た茶葉のことです。昭和六十年ごろ、三重県で作られはじめました。原料の多くは、覆いをかけない露地の秋番茶です。これを粉砕機で挽いたものが「加工用抹茶」「食品用抹茶」の名で売られ、抹茶に混ぜられることもあります。

数で言うと、こうなります。いま作られている「抹茶」のうち、石臼で挽いているのは二割ほど。残る八割は粉砕機です。

粉砕機の粉は粒子の形も細かさも違い、口あたりも香りも別物になります。同じ緑の粉に見えても、名前を分けるだけの隔たりがある、ということです。

見分けたいときは、を見てください。覆った茶は深く濃い緑になります。黄色みや茶色みが強いものは、覆っていないか、鮮度が落ちています。

淹れ方も、そこから決まる

作り方が違えば、飲み方も変わります。

煎茶は七十度から八十度くらいの湯で、一分ほど。熱すぎると苦渋みが出ます。

玉露は五十度から六十度と、かなりぬるめ。二分ほどかけて、旨味だけをゆっくり引き出します。玉露を熱湯で淹れるのは、覆下で蓄えた旨味を苦味で覆い隠すようなものです。

抹茶は、湯の温度でいえば八十度前後。ただし抹茶だけは葉を捨てません。煎茶や玉露は成分の一部が湯に溶け出すだけで、葉は残ります。抹茶は葉をまるごと頂く。同じ茶の木でも、体に入る量がまったく違います。

覆って旨味を蓄えさせ、揉まずに繊維を守り、挽いてまるごと頂く。抹茶は、茶葉を最も贅沢に使う頂き方だと言えます。

それでも、飲みたいように飲めばよい

こうした区別を知ると、かえって身構えてしまうかもしれません。そんな必要はありません。

煎茶が抹茶より劣るということはなく、番茶にも、ほうじ茶にも、その茶にしかない良さがあります。分類は優劣の順位ではなく、分かれ道の記録です。

ただ、抹茶を選ぶときには、この三つを知っていると損をしません。八百年かけて日本で磨かれた作り方が、値段の差の中身だからです。

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