抹茶、玉露、煎茶、番茶、ほうじ茶。売り場にはいくつも並んでいますが、もとは全部、同じ木です。日本で飲まれる緑茶は、ほぼすべてチャノキという一種類の木から採れます。
では何が違うのか。分かれ道は三つだけです。
三つの分かれ道
1. 覆うか、覆わないか(育て方)
2. 揉むか、揉まないか(仕上げ方)
3. 挽くか、挽かないか(飲む形)
この三つの組み合わせで、名前が決まります。
覆うと、何が変わるか
摘む前の三週間ほど、茶畑に覆いをかけて日光を遮る。これを覆下栽培(おおいしたさいばい)といいます。
日が当たらないと、葉は身を守るための苦渋み成分(カテキン)をあまり作らず、代わりに旨味成分(アミノ酸・テアニン)を蓄えます。葉緑素が増えるので、色も濃い緑になります。
覆った茶は、旨味が強く、苦渋みが少なく、緑が濃い。この一手間が、高級茶と普段の茶を分ける最初の分岐です。
覆下栽培は、日本で生まれた工夫です。中国にはありません。栄西が茶を伝えた当初は露地栽培で、当時の抹茶は白っぽく、苦く渋いものでした。
三つの茶が、どこで分かれるか
抹茶——覆う。揉まない。乾かして碾茶(てんちゃ)にし、石臼で挽いて粉にする。
玉露——覆う。揉む。葉のまま湯で淹れる。
煎茶——覆わない。揉む。葉のまま淹れる。
つまり、玉露と抹茶は「覆う」まで同じ道を来て、揉むかどうかで分かれます。玉露と煎茶は「揉んで葉のまま淹れる」点が同じで、覆うかどうかで分かれます。
かぶせ茶は、覆う期間が一週間ほどと短いもので、煎茶と玉露の中間にあたります。
なぜ抹茶だけ揉まないのか。揉むと葉の繊維が壊れます。挽いて粉にするには、繊維が壊れていないほうがよい。飲む形が先に決まっていて、そこから逆算して作り方が決まっているわけです。
「マッチャ」と抹茶
世界中で緑の粉が「MATCHA」の名で売られるようになりました。ただ、そのすべてが抹茶かというと、そうではありません。
本来の抹茶は、次の三つを満たすものを指します。
1. 覆下で育てた葉
2. 揉まずに乾かした碾茶
3. 石臼(またはそれに相当する微粉)で挽いたもの
覆わずに育てた葉や、粉砕機で砕いただけの粉末茶が「マッチャ」として流通することがあります。粉砕機の粉は粒子の形も細かさも違い、口あたりも香りも別物です。
見分けたいときは、色を見てください。覆った茶は深く濃い緑になります。黄色みや茶色みが強いものは、覆っていないか、鮮度が落ちています。
淹れ方も、そこから決まる
作り方が違えば、飲み方も変わります。
煎茶は七十度から八十度くらいの湯で、一分ほど。熱すぎると苦渋みが出ます。
玉露は五十度から六十度と、かなりぬるめ。二分ほどかけて、旨味だけをゆっくり引き出します。玉露を熱湯で淹れるのは、覆下で蓄えた旨味を苦味で覆い隠すようなものです。
抹茶は、湯の温度でいえば八十度前後。ただし抹茶だけは葉を捨てません。煎茶や玉露は成分の一部が湯に溶け出すだけで、葉は残ります。抹茶は葉をまるごと飲む。同じ茶の木でも、体に入る量がまったく違います。
覆って旨味を蓄えさせ、揉まずに繊維を守り、挽いてまるごと飲む。抹茶は、茶葉を最も贅沢に使う飲み方だと言えます。
それでも、飲みたいように飲めばよい
こうした区別を知ると、かえって身構えてしまうかもしれません。そんな必要はありません。
煎茶が抹茶より劣るということはなく、番茶にも、ほうじ茶にも、その茶にしかない良さがあります。分類は優劣の順位ではなく、分かれ道の記録です。
ただ、抹茶を選ぶときには、この三つを知っていると損をしません。八百年かけて日本で磨かれた作り方が、値段の差の中身だからです。